ある博士は、新しい掘削技術によって人間の進歩に貢献するのだいう信念を持って、ある特殊な爆弾を作りました。彼は悪い人には使えないように、彼にしか設計プロセスは分からないようにし、また、彼しか知らないすべての爆弾を止めることのできる暗号をセットしました。その暗号がセットされていること自体、彼しか知りません。
ところが、その爆弾が地形への被害を最小限にして人間を大量殺傷できる使い方が各国の軍部の注目を集め、その爆弾は高額で取引されるようになりました。
戦争が激化するにつれて、博士には大量のお金が入ってきます。また、各国首脳は彼の言いなりです。
博士は、博士の好きな人間で側近を固め、国家よりも強い権力を手にするようになります。災害が起きたときには博士は大量の寄付を投下し、世界から尊敬の眼差しを浴びることになります。彼の名前の大学も建ちました。
しかし、爆弾工場がある国の生活は全く良くならないどころか、工場員の過労死や鬱病が多発しています。幸せ指数は1番低いそうです。
ある時、博士の出身国で銃撃事件が起きます。15歳の若者です。父親が爆弾工場の工場員で過労死したそうです。その若者は、警察に射殺されました。
博士は自分のやってしまったことに気がつきます。爆弾ができる前、開発が全然うまくいかなくて挫けそうになっても人類の進歩のためにという信念で乗り越えたあの頃の気持ちを思い出したのです。もう、すべての爆弾を止める暗号を使う決心をしました。
その夜、博士は妻に毒殺されて暗号は闇の中へ消え、彼に媚をうることがうまかった経営者が世界の工場の実権を握ることになりました。
同じものの再生産はできるものの、爆弾がどのようなプロセスで作られたかは誰にも分からなくなってしまい、抜本的な改良はできなくなってしまいました。
爆弾は次世代に託されました。新たな兵器で戦おうとする人、爆弾をすべて回収しようとする人、爆弾工場を破壊しようとする人、爆弾は正義のためであると主張する人、爆弾を売って荒稼ぎする人、爆弾に巻き込まれる人、爆弾と関係ない世界へと旅立つ人、そもそも無関心な人、たくさんの想いが空に交錯しています。
また今日もどこかで爆弾が爆発し、そして憤怒するテロリストの銃声が空に響きました。たくさんの人が亡くなったようです。
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これは、核兵器のことを指しているのではない。株式資本主義の末路とは、こういうことだと思う。
そして、どの登場人物の行動も人間の本性であり、ある意味において正しくそして必然である。自分も状況との巡り合わせによって、どの立場となるのかはわからないし、巻き込まれるまでは考えもしなかった非常識な行動を取りうるということを認識することが重要であると思うのだ。
誰も、特別な人間などいない。誰もが始まりにおいては、何があっても自分だけは善良なる市民でいられ続けられると思っているし、たとえその手が鮮血で染まっているその瞬間ですら、自分は善良なる市民だと本気で思っているのだ。